菱沼俊哉
横浜市立大学 医学部医学科 5年
ACPに参加したきっかけ
海外留学に向けて、学生の間しかできない特別な経験を積みたい。また、委員という立場を通して今までにない学びの場を創造したい。
米国内科学会(ACP)日本支部学生委員会
第2回はアメリカ合衆国と日本における医療制度の違いについてお伝えしていきたいと思います。
「日本は国民皆保険である」など、断片的な情報は知られていることも多いですが、他国との医療制度の違いについては我々医学生にとっても知る機会が少ないです。特に総合診療の分野では、多様な患者と接する機会が多いこと、医療施設間の連携などの機会が多いことから、医療制度の概要について知っておくことはとても有用だと思います。第1回の「総合診療に関するキャリアパス」に続いて、私たち医学生にとっても分かりやすく概要をお伝えしていくことで、海外や
日本の医療について興味を深めていくきっかけになれば幸いです!
目次
■医療制度の種類について
■日本の医療制度について
■アメリカ合衆国の医療制度について
■医療制度の種類について
医療制度にはイギリスやスウェーデンに代表される税金を主な財源として運営される方式、アメリカのように民間保険が主体となっている方式、それらの中間として、日本やフランスのように社会保険が公的な制度として確立し、その保険料によって運営される方式に大別することができます。イギリスでは国営で医療サービスが提供されていることから費用はほぼ無料となっており、さらに各国民がかかりつけ医を登録しなければならず、かかりつけ医と専門医の役割分担が明確化されています。これらイギリスの医療制度はNational Health Service(NHS)と呼ばれ、都市部と地方の医療資源の適正配分や、かかりつけ医が地域住民の健康状態について日頃から知っておくことができるなどのメリットがあります。一方、政府の財政状況に医療設備の整備が左右される、専門医に受診するまでに時間がかかるといったことが問題としてあるようです。
■日本の医療制度について
日本の医療制度については、国民全員が社会保険に加入する「国民皆保険」が特徴的です。日本では昭和36年にこれが達成され、世界的に最も早く達成したことになります。そのため我々日本人は、サラリーマンは健康保険、自営業者などは国民健康保険といった形でそれぞれの社会保険に加入し、保険料を支払うことで医療サービスを受けています。社会保険は保険料の他にも税金による公費負担がなされており、その運営が行われています。また他にも、フリーアクセス(医療機関を患者側が選べる)、開業の自由(医師が原則として自由に開業、専門科を標榜できる)といった特徴があります。これらのことから、保険制度により個人に過度な金銭的負担がかかることが少ない、患者は比較的短時間で専門医に受診することができる、自由に開業できることから民間医療機関が主体となっていることなどが日本の医療制度のポイントとして挙げることができます。また、盲腸の手術を例に取るとニューヨークでは152万円〜441万円となっているのに対し、日本では30万円と非常に安価に医療サービスが提供されているようです。一方、イギリスのようにかかりつけ医登録はなく大きな医療機関に簡単にアクセスできることから、医療資源の適正配分のためには、かかりつけ医の定着はある程度必要なのかもしれません。
■アメリカ合衆国の医療制度について
アメリカにおける公的な医療保険は限られた人のみが加入できる形になっています。主なものとして、Medicare(メディケア)は65歳以上の高齢者や身体障害者等を対象にしたものであり、Medicaid(メディケイド)は低所得者を対象にするものです。つまり、対象以外の多くの国民は民間の医療保険に入るしか選択肢がありません。民間医療保険にはプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズといったグレードが存在し、それらに応じて保険内容や自己負担額が異なります。また、保険会社は900社以上存在していますが、大手5社で市場全体の44%を占めており、非常に保険会社の影響力が強いことが伺えます。また、診療報酬は日本のように公的に決められるのとは異なり、市場取引(保険会社、医療者、患者の取引)によって決定されるため、同じ医療サービスでも価格は施設によって異なり、一般に高額になってしまう傾向にあります。一例として、カリフォルニアの主要な病院間で胸部レントゲン撮影の提示価格は最大で約7倍近くの開きがあるようです。このため、無保険者が多いことも問題となっています。一方、この制度により質の高い医療には高い報酬が払われるということになるため、医師の間の競争が激しく、医学の発達も促されることになります。
近年ではオバマケアと呼ばれる大きな改革が実施され、国民に保険に入るように促し、そのための補助金等を支給することにより、無保険者を減らすことが目指されています。
それぞれの国の医療制度は一長一短があり、完全な制度はないのかもしれませんが、歴史的な背景、国民性などが色濃く反映されているように感じました。アメリカや他国で働きたい医学生にとっては、その国の制度について知っていくことはもちろん必要ですが、日本の医療制度についても、より良いものにしていくため医療関係者それぞれが考えていくことが重要だと感じました。
(※記載内容について、できる限り正確に保つように努めていますが、正確性・完全性・最新性等を保証するものではありませんので、予めご了承ください。)
(参考文献)
・地域の医療と介護を知るために-わかりやすい医療と介護の制度・政策-第2回 日本の医療制度はイギリスやアメリカと違う?「厚生の指標」第63巻第8号 (2016年8月)
・日本医師会ホームページ https://www.med.or.jp/people/info/kaifo/compare/ (2021年12月25日検索)
・米国における医療保険制度の概要 日本貿易振興機構ニューヨーク事務所海外調査部(2021年6月)