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今回のインタビューでは、佐々江 龍一郎先生にお話を伺いました。​

佐々江龍一郎先生 ご略歴

12歳で渡英。2005年英国ノッティンガム大学医学部卒業後、家庭医療専門医の資格を取得し、約10年
ロンドンで家庭医として活躍。2017年に帰国、NTT東日本関東病院総合診療科、国際診療科の部長として勤務されています。「国籍や文化、宗教にかかわらず、すべての患者に良質な医療を提供する」と
いう取り組みのもと、医療のグローバル化にも従事されています。

GPとは?

General Practitionerの略で、日本でいう「かかりつけ医」を意味します。

診察を受けたい時は、登録したGPに予約をし、受診します。日本では、例えば発疹がでれば皮膚科に、耳に異常を感じれば耳鼻科に行くなど自身で病院を選択しますが、イギリスでは違います。どのような症状でも、まずはGPに行き診察してもらいます。その上で必要と診断された場合にはこのGPに紹介される形でより大きな病院で専門的な治療を受けることになります。

​目次

1.GPとは?

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1. GPとは?

 

佐々江先生は、なぜ、 GPを目指そうと思われたんですか?

 

 僕がなぜGPを目指したかというと、初期研修で、ローテションをする機会があって、その時に病院があまりにも機械的だと思ったんですよね。

 イギリスでは、急性期の患者さんが沢山入院します。日本みたいに経過観察入院があまり、ありません。そのため、すぐに重症の患者さんで

病床が満床になるし、治療した患者さんが またすぐ病院に戻ってきちゃったりします。 だから、やっていることがすごく機械的だし、人間味が

あんまりないなと思ったんですよね。 それに対して、GPっていうのは、すごく人間味があって素直にいいと思いました。

皆さんすごく仲良さそうだし、クリスマスにはギフトをもらったり、患者さんと医師とのrelationshipがすごく確立されていていいなと思いました。

GPの良いところを教えてください。

 

 同じ臓器を見るっていうのはどこかでプラトーに達するのではないか、と思います。

 僕自身は、いろんなことを突き詰めて見るのが好きだったので diagnosticとまでは言わないけれど、色々幅広い分野を見たいなと思って

いました。病的な病的な部分もみて、社会的サポートの部分も見て、みたいなことは、GPにしかできないと思っています。次来院する患者が

想定できないという意味では、すごくバラエティはあったかな …。

 

GPの課題があれば教えてください。

 

 広く浅い知識が求められるっていうのもそうなんですが、CTとか何回も撮れる訳じゃないですし、限られた資源で診断をするのは難しいです。

 また、最後まで診断をつけるっていうのは難しいですし、診断がつけられない時にどのようにriskを判断するのかは、重要なスキルです。フリーアクセスなので、完璧な診断をできない患者が多いですし、診断を待っている間に病状が悪化する患者さんも少なくないです。そういったリスクを判断しなければならないのは、GPならではだと思います。

GPとして働いていて困難だったことはありますか?

 

 GPとして求められる能力の一つは「dealing with uncertainty」, つまり「どう不確実性に対処」するかです。

 地域のGPの環境は病院などとは異なり、CTなどすぐに撮れる環境ではなく、逆に問診や身体診察能力が求められます。つまり病院のように「狭く深い知識」よりは、地域では「広く浅い知識」で限られた資源と時間のなかでリスク評価する能力が求められることが多いです。しかし

時に診断がつけられない中、フラストレーションをためる患者もいますし、それが医療者にとっても不安に感じる要素になりえます。ただ良い

GPになるためには適切にこの「不確実性を対処する能力」を養うことは欠かせません。

 

イギリスでGPをしていてよかったって思うことはありますか?

 

 圧倒的に感謝されることが多いんですよね。なんでかというと…ずっと患者さんを診てるからですかね。患者さんの理解を得やすいですし、

お互いをよく分かっているので、よく感謝されます。クリスマスにはたくさんギフトをもらったりします(笑)

僕らが医師になった意義というのは、別にお金ではなくて、ある程度役に立って感謝されたいっていう気持ちがあると思うんですよね。それが

結構満たされやすいです。あとは、すごくアットホームで、自分たちのやりたいように創造できます。チームっていうのもありますが、大きな家族みたいな感じなんですよね...

 

イギリスではGPはやはり人気なのですか?

 

 基本的には人気があって今だと約4割の医師がGPになります。国の支援があるんですよね....

 日本は、より現場主義的なところがあるのではないでしょうか。専門医の養成は、現場に任せられているし、現場はとても優秀です。でも、日本全体でみると、より国単位の支援が必要だと思います。医療は縦割りなので、構造的な問題ですかね......例えば、夜間に患者さんが発熱で来ても、

専門がなく、だれの専門だって話になります。これは構造的な問題ですね。国が責任を持って専門医やGPの数を調整することも必要かもしれません。今コロナ渦で、かかりつけ医とは、何なのかをちょうど考える機会になると思います。今後5〜10年で状況が変わることを僕は期待して

います....

 

先生はイギリスでGPとして働かれた後に、帰国しています。

なぜ、日本に帰国しようと思われたんですか?

 

 自分の中で何か物足りなさを感じたからですかね。自分の中のprogressionに結構見えづらい部分があって.....自分はもっと何か貢献できることがあるんじゃないかと思いました。人生はチャレンジだし、失敗したら、やり直せばいいと思っていて...

 国際的な人材を探していた知り合いに声をいただき、日本に帰国し、国家試験を受けました。今は、NTT東日本関東病院の国際診療科というところで働いています。外国人を診ている時には、GPみたいなところが多いですが、 どちらかというと内科+アルファみたいな感じで患者さんを

診ています。

 

2.学生へのメッセージ 更なる高みを目指して

 

人生の岐路に立った時に、何を大事にされていますか?

 

 直感かな? 結構否定から入る人が多い中で、成功している人ってたくさんリスクをとってきた人なんですよね。だから間違ったことをするっていうのってリスクだけれども、間違っても前に進めばいいだけだから、チャレンジはしていいんじゃないかなって思います。ある程度、目標を

決めてチャレンジをすることが大切だと思います。

 イギリスから日本にも戻ってくるっていうのも結構大きい決断でした。やっていく中で、こういうのも面白いなとか、とかが出てきたら、結構

迷わずやってみることが重要かもしれないと思います。あまりリスクを恐れないってことですかね...

 お医者さんにとって海外に出るって事はリスクかもしれませんが、何かといい経験にはなると思うし、他の人が得られない経験もあると

思います。

 

どのように、困難な時期を乗り越えていらっしゃいますか?

 

 今でも Up & Down っていうのはあって challengeをするっていうのは、すごい疲れることでストレスもかかります。それをどのように消化

していくのかっていうのは大切ですね。 僕は、それをそんなに考えてこなかった方だから、がむしゃらに進んできて、気づかないうちにストレスを抱えていることがありました。

 これって結局教育されないので、若いうちの投資なんですよね...こういう風に考えた方がいいんだなというベクトルを持つことは重要なんじゃないかと思いますね。成功している人の本を読み漁ってみるとこうしているんだなっていうことがわかるし、成功している人から、いろいろ吸収したり真似してみたりするといいと思います。それが一番の近道だと思います。

 

今後の先生の展望を教えてください。

 

 2つあって....

 日本と海外だとやっぱり医療制度が違うんですよ。

 症状に応じてどこの科にいけばいいのかわからないっていう外国人は多くて、海外の渡航者も増えるし、移民を今度受け入れなくてはいけない中で、そういったニーズって今後増えていくはずです。日本は、医療のレベルが高くても外国人に対してどう医療を提供するかが突き詰められていません。東京だったら、外国人経営のクリニックがあり国際対応していますが、病院はそうでもなくて結構closedなんです。 internationalっていうところでもすごく closedだったりするんだよね。だからそういった意味で選択肢が少なくて、だから、外国人にも対応できる病院を目指して行きたいなっていうのが僕の一つの目標です。

 あともう一つは自分の経験を活かしていきたいなっていうのがあります。

今後、総合診療とか家庭医の重要性が増していくと思っています。

若い世代に自分がやってきたことを教えていきたいし、ちょっとずつプログラムとかできたらいいなって思います。

 

医学生のうちにしておいたほうがいいことはありますか?

 医学生の経験ってすごく重要だと思います。

 いいものを見ているとやっぱりそこに惹かれますからね...

 外を見る経験や、いいところを見られる医学生の経験って非常に大切です。

 医学生のうちにやっておいた方がいいことは、自分のモデルとなるような医師を見つけておくことですかね。やっぱり目標となる人を見つけて、将来こうなりたいな、こうなるためにはこうしないといけないな...っていうのをある程度考えておいた方がいいのかなって思います。

具体的に決めておくと、学ばなければならないこともわかりますしね。

インタビューワーあとがき

先生の「医師になった意義」のお話がとても印象的で、一人一人の患者さんと向き合うGPという仕事の素晴らしさに改めて気づかされました。日本と英国の医療制度の違いに着目しながら、さらに質の高い医療を提供しようと尽力されている先生の姿はとても素敵で、筆者自身の強い憧れとなりました。私自身も「挑戦していく姿勢」というものを大切にし、自己研鑽を積みたいと思います。今回インタビューにご協力してくださった先生に厚く御礼申し上げます。本当に有難うございました。

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