菱沼俊哉
横浜市立大学 医学部医学科 5年
ACPに参加したきっかけ
海外留学に向けて、学生の間しかできない特別な経験を積みたい。また、委員という立場を通して今までにない学びの場を創造したい。
米国内科学会(ACP)日本支部学生委員会
新しいことは挑戦してみよう
今回は、米国のワシントン大学、スイスのベルン大学でのご勤務を経て、現在はドイツのマインツ大学にて麻酔科医としてご活躍されている、福井公子先生にお話をお伺いしました。ヨーロッパで医師として働くことの魅力や、海外でのキャリアを形成していった経緯など、大変興味深いお話をお伺いすることができました。
先生のご経歴について教えてください。
私は九州大学医学部で学生時代を過ごし、卒後は九州大学の麻酔科に入局して臨床研修を受けました。脳外科で半年間研修をする機会があったのですが、そこで脳神経の機能と麻酔の間の強い結びつきを感じましたね。そういった経緯もあり、大学院に進学して脳神経外科の研究室で研究を行いました。
その後、以前から交流のあった先生からオファーを受けて、ミズーリ州のワシントン大学でゲストプロフェッサーとして働くことになりました。数年間そこで働いた後、ワシントン大の同僚と共にスイスのベルン大へ渡りました。ベルン大での勤務の後、現在の勤務先であるドイツのマインツ大に移り、今に至ります。
海外勤務の始まりとなった、渡米の経緯はどのようなものだったのですか?
大学院の研究データをアメリカの学会で発表する機会があったんです。その時に、医局時代からお世話になっていたワシントン大の先生と連絡を取って、見学へ行かせてもらったんですね。当時、アメリカの一部の大学の麻酔科ではスタッフ不足の解消やアカデミックな交流を目的として、外国出身の専門医をゲストプロフェッサーとして雇う制度がありました。ワシントン大にもその制度があったので、ゲストプロフェッサーとして働かないかというオファーを先生からいただきました。
日本に戻った後、渡米するか迷ったのですが、学位の目処も立っていて、麻酔科の専門医の資格もとれたところだったので、ワシントン大の脳外科手術室で働くことに決めました。
渡米後、アメリカ麻酔科学会にて。ドイツ、イギリスからの同僚との写真。
ワシントン大での生活はいかがでしたか?特に、臨床行為と研究の両立は大変ではなかったですか?
ワシントン大では、主にヨーロッパの様々な国から来た同僚たちと働きました。臨床で働く日と研究をする日は分かれていたので、あまり大変ではありませんでした。仕事の時間は長かったですが、シフトは決まっていたので、その点も良かったですね。
スイスのベルン大へ移った経緯や、勤務のお話を聞かせてください。
ワシントン大で臨床研究グループを率いていた同僚がベルン大の教授になるという話が出たんです。ワシントン大でゲストドクターとして働ける3年の期限が迫っていたことや、さらに別世界を見たいという好奇心に駆られ、数名の仲間と一緒にベルン大へ移ることを決意しました。
スイスへ行くにあたり、アメリカで1年間、ドイツ語の夜間学校に通って勉強しました。しかし、スイスのドイツ語は訛りが入っていたり、フランス語を話す患者さんが多かったりと、言葉の壁を感じることは多かったです。
スイスで働き始めて1年がたった時、ビザの関係もありスイスを離れることとなりました。そこで、アメリカ時代からお世話になっていたドイツのマインツ大の先生のお誘いで、今働いているマインツ大へ勤務することとなりました。
そこからずっとドイツでご活躍されているのですね。ぜひ、ドイツで働くことの魅力について教えてください。
一番の魅力は、時間の余裕があることですね。パートタイムを減らして働くということがしやすいです。子育て中は男性も女性もフルタイムの70%程度の日数や時間で働く人が多く、いつも100%でがむしゃらに働かなければいけない、という風潮がないのがありがたいです。法律で6週間の休暇が定められていて、それを全て取ることが推奨されているのも魅力です。街の人は日本人に好意的で、自分と違うことを好奇心を持って受け入れてくれるので、居心地がいいですね。
ドイツは私立病院が少なく、公立病院がメジャーなので、そこに患者さんが集まってきます。公立の大学病院であるマインツ大は扱う症例数も多く、自分の好きなことである手術の麻酔がたくさんできるので、やりがいを感じますね。
「手術の麻酔が好き」とのことですが、麻酔科の魅力はなんだと思いますか?
やっぱり、毎日目標があってステップアップしていけるのが魅力ですね。毎日違う手術、患者さんと出会って、そこで日々小さなチャレンジを積み重ねていくと、いつの間にか自分のスキルが高まっていきます。そうやって、どんどん難しい手術などにチャレンジしていけるのが面白いです。
そして、キャリアの選択肢が広いのもいいところだと思います。麻酔科医は独り立ちした後、ペインクリニック、救急、緩和ケア、ICU、手術室のマネジメントなど、多様なキャリアがあって、自由度が高いです。自分の好きな道を選ぶことができるのも、麻酔科の魅力ですね。
手術室にて麻酔の管理をされる福井先生
キャリア形成において大事にしている価値観はありますか?
新しいことは挑戦してみよう、という気持ちですね。日本で取った専門医の資格や学位があるので、もしダメでも日本に帰るところがある、という安心感があります。だからこそ、チャレンジを続けられますね。
常にチャレンジを続ける姿勢、素敵です。これからチャレンジしてみたいことや、将来のビジョンはありますか?
これからは、より総合的に診られる医師になりたいと思っています。今は、緩和ケアをできるようになったり、救急医の資格を取ったりしたいと思い、勉強しています。また、生活が落ち着いてきて、自分の経験をフィードバックする余裕が出てきたので、学生の海外実習の受け入れなども続けていきたいなと思っています。
最後に、学生に向けて一言お願いします。
今は昔と違って、医師のキャリアも多様化しています。いろんな先生と話して、なりたい医師像を見つけるといいと思います。興味のある資格を取ってみるのもおすすめです。一見まわり道に見えても、それが後々活きてくると思います。また、若いうちから国際学会に行くと、世界が広がったり、そこでのつながりが後々キャリア形成に繋がってくることもありますよ。
学生実習の受け入れの様子。これまでに100人以上の学生がマインツ大で麻酔の実習を行った。
編集後記
キャリアの転機において、今までとは違う新しい世界に足を踏み込んでいこうとする福井先生の姿勢が印象的でした。ヨーロッパやアメリカでの勤務のお話にとどまらず、麻酔科の魅力についてもお話しいただき、キャリアを考える上でとても貴重なお話をお伺いすることができました。自分も、新しいことに絶えずチャレンジしていく姿勢を忘れずにいたいと思います。福井先生、インタビューに快くご協力いただき、ありがとうございました。
群馬大学医学部 野中浩伸
zoomインタビュー時の記念撮影 画面下側が福井先生