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仕事も家庭も大切に ご縁が導いたキャリア

 

 今回は、米国のバージニア大学に留学経験があり、現在は総合診療医としてご活躍されている、小和瀬桂子先生(群馬大学大学院医学系研究科総合医療学 教授) に、お話をお伺いしました。留学のご経験や、研究と臨床の兼ね合い、ライフイベントとキャリアなどについて、とても貴重なお話をお伺いすることができました。

 

先生のご経歴について教えてください。

 

 学生時代は、細胞生物学に関する論文の抄読会に参加していて、基礎研究に興味がありました。大学卒業後は、何でも診られる医師になりたいという思いがあり、また循環器に興味があったので、循環器を扱っていた当時の第二内科に進みました。

 研修医として血管の再狭窄を繰り返してしまう患者さんを診ているうちに、薬剤の開発などを通して再狭窄の予防に携わりたいと考えるようになりました。その分野に関して、群馬大学大学院で永井良三先生(現 自治医科大学学長)が興味深い研究をなされていたのもあって、大学院に進みました。指導医の仕事をしながら研究をする日々は忙しかったですが、充実していましたね。大学院を卒業した後、国際学会で研究発表を行ったところ、同じ領域の研究をされていて、永井先生のお知り合いでもあったGary Owens先生(現 University of Virginia教授)にお誘いを受けて、3年間ポスドクとしてUniversity of Virginiaに留学しました。

 2006年に帰国後、出産を機に研究を続けるか臨床の道に進むか迷っていました。そんな時、私が研修医の時の指導医で、当時総合医療学の教授だった田村遵一先生(現 群馬パース大学教授)にお誘いを受けて、総合診療の道に進みました。総合診療に身を置いたのは2009年くらいからで、総合診療が2018年に新しい専門医制度の基本領域に認定されるまでの過程に関わることができました。当時は子育て中でもあったので、両立できるような形で働かせてもらいました。現在は、総合診療医として群馬大学で勤務しつつ、学生や後進の医師への教育にも携わっています。

 

多くの先生方とのご縁が、先生のキャリアを形作っているのですね。

 

 そうですね。思いがけずご縁があったということもありますが、色々とご縁に支えられているという実感がありますね。一生懸命何かに取り組んでいると、どこかで誰かが見ていてくれているんですよね。そして、何かの機会に誘っていただいたりする。そうやって先生方と繋がっていけるというのもあると思います。

3年間留学されていたということですが、留学中はどんな研究をされていましたか?

 

 大学院時代と同じく、動脈硬化や血管再狭窄のメカニズムについての研究を行っていました。アメリカは研究環境がとても良く、日本と比べて他のラボとの垣根が低いように感じましたね。一方で、研究費用が尽きて隣のラボがなくなったこともあり、厳しい世界だと感じました。3年間で帰国しましたが、正直もう少し残りたい気持ちもありましたね。すごく楽しい期間でした。

 

留学の経験は、今にどう生きていますか?

 

 留学を通して、研究においての基本的な考え方や作法が身につきました。研究の進め方、プレゼンテーションの仕方、論文の書き方など、きちんと一回経験することで学べたのはよかったです。このように、一度留学して研究にどっぷり浸かってみると、様々な学びがあっていいと思います。そして、海外で研究をすることで人脈ができますので、それも大事だと思います。

留学から帰国後、研究か臨床かのキャリア選択をされた時のお話を聞かせてください。

 

 研究も臨床もどちらも好きでしたが、やっぱり「何でも診られるお医者さん」になりたいという想いがあったので、研究は続けつつも臨床にシフトしました。特に学生さんたちは、研究か臨床かどちらか一つを選ばなくてはいけないというふうに考えている人が多いと思います。でも実はそんなことはなくて、研究と臨床の両方を少しずつやっていくのでもいいと思っています。

 

両方を少しずつやっていくというお話がありましたが、研究と臨床、そして家庭の両立は大変でしたか

 

 3つ全てを同時期に無理して両立しようとする必要はないと思います。ある時期は研究、ある時期は臨床、と時期を分けて、大変にならないようにするのもありだと思います。何事も計画通りにはいかないですし、家庭のライフイベントもあったりします。1-2年仕事を離れて、育児や介護などの経験をすることも貴重な体験になると思います。

出産を機に、キャリアについて考えが変わったりしましたか?

 

 私は、子供は授かりものだと考えているので、出産の計画などを詳しく立てたりはしませんでした。出産は遅かったので、学位や専門医も取得し、海外留学もした後でしたので、キャリアのブランクができることへの焦りなどは特になかったですね。出産を通して、出産、育児、親の介護などのライフイベントで仕事を一時的に離れることへの考え方が変わりました。医療者は、多様な患者さんと向き合っていきますよね。自分に起こったライフイベントの経験は、患者さんの境遇に思いを馳せることができるチャンスだ、とポジティブに捉えられるようになりました。ライフイベントで休職することも、医療者として幅のある人間になれるチャンスかなと思います。

 

臨床、研究、教育それぞれの魅力を教えてください。

 

 研究は、知的好奇心を満たしてくれます。大学院時代、仮説を立ててそれが立証できる感覚にやみつきになりました。学会発表でディスカッションをしたりすると、新たな発見があって、それもすごく面白いですね。

 臨床では、困っている患者さんの悩みを解決できた時は純粋に嬉しいですね。長い間診断がつかなくて困っていた患者さんを診断して、それがきっかけで患者さんの暮らしが劇的に改善した時などは、すごく嬉しいです。

 教育には教育の面白さもあります。入学したての1年生の時と、医学の勉強や臨床実習を経た5,6年生の時では、学生の顔つきが変わってくるんですよね。そして、卒業した学生が数年ぶりに研修で戻ってきたりすると、彼らの成長を実感して嬉しくなります。学生が成長していく様を間近で感じられることは、大学で教員をやっているからこそ味わえる魅力だと思います。

 

学生時代にやっておくといいことはありますか?

 

 私は、研修医時代に臨床、大学院生時代に研究と、それぞれにのめり込んだ経験があって、その経験が今の仕事のマネジメントに役立っています。両立を考えないで、一つのことにどっぷり浸かれるうちにがむしゃらに取り組むと、その後に両立することになっても自分でマネジメントできるので、苦労しないと思います。学生時代には、色々な研究室をのぞいてみたり、与えられたチャンスを逃さずに積極的に参加してみたりするといいと思います。学生時代にしかできない色々な経験をしておくといいですね。あとは、英語の勉強ですね。私は英語が話せなくて、国際学会の発表で苦労しました…。

 大学の時に出会った友人や先生に、その先の人生で思いがけず関わることがしばしばありますよ。もちろん、学生時代からそんなことを考えて人と付き合う必要はありませんが…。いろんな考えの人に触れることができるのも、学生時代の醍醐味だと思います。

 

チャンスを逃さないというお話がありましたが、小和瀬先生流のチャンスの掴み方はありますか?

 

 やりたいこと、興味のあることに関してアンテナをはっておくのがおすすめです。チャンスはみんなに平等に来ていると思うので、それを逃さず、掴み取れるようにしておくといいと思います。自分は留学したいと周りにアピールしていたら、ありがたいことにお誘いをいただきました。

 誘いを受けた時、自分がいいなと思ったものは断らずに積極的に受けるようにしたのも良かったのかな、と思います。誰が言ったかは忘れましたが、「迷ったら困難な道を選べ」という意味の言葉があって。自分もそうありたいなと思っています。

 

今後の目標について教えてください。

 

 地域医療の活性化、教育による後進の育成、そして目の前の患者さんを良くすることの3つの柱を考えています。地元である群馬や隣接する埼玉県の地域医療の充実化に貢献して行きたいと考えています。来年から7年間、地域医療を担う人材を育成するプロジェクトに関わる予定です。

 大学の総合診療科を受診する患者さんは、診断がつかなくて困っている方が多いんですよね。そういった方に寄り添っていくこと、そして総合診療的な考え方を持った医師を増やしていくことが使命かなと思っています。そのためにも、後進の医師たちに診断学を教えていくことも必要だと感じています。

 

編集後記

 小和瀬先生が終始笑顔で、ご自身のキャリアについてのお話を楽しそうにされている姿が印象的でした。仕事から離れて、育児や介護に専念するのも、医療者として幅のある人間になれるという言葉は、常に家庭と仕事の両方を完璧にやらなくてはならない、と思われがちなキャリア観をほぐす、大切な考え方だと感じました。

 小和瀬先生のキャリアは、さまざまな方とのご縁に支えられていることが随所に感じられました。人との繋がりを大切にする先生のお人柄が、そのままキャリアに表れていると思いました。私も、これから様々な人との出会いを大切にして、学生生活を送っていこうと思います。最後に、インタビューに快く応じていただいた小和瀬先生に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

 

 

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左から、野中(ACP)、小和瀬先生、高野(ACP) 

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